インターセックスについてのよくある質問 (FAQ)

基本的な質問

インターセックスって何ですか?

分野や医者によって見解の違いがあり、決定的な定義はありませんが、米国国立健康研究所による定義では「先天的な生殖系・性器の異常」とされています。より一般的には、外性器・内性器・内分泌系(ホルモン異常など)・そして場合によっては性染色体などが、「普通」とされる「男性」もしくは「女性」と異なる場合、その人はインターセックスであるといいます。具体的な例としては、以下のようなものが挙げられます。

これを見て分かる通り、インターセックスと呼ばれる状態にはさまざまな症状があります。わたしたちがインターセックスをひとまとめにして語るのは、これらの症状が生物学的に似通っているからではなく、これらさまざまな症状を持つひとたちが置かれた社会的状況が似通っているからです。

1950年代以降、先進各国では「インターセックスの子どもは、できるだけ早い時点でノーマルな男性もしくは女性に見えるように外科手術をほどこして、本人には事実を教えないのがその子のためである」とされてきました。そうすることで、インターセックスの身体は病院で「修正」され、その存在自体が社会から隠されています。事実、インターセックスの症状を持つ人たちのほとんどは、普通の男性もしくは女性として社会で生活しています。

インターセックス・ムーブメントの目的は何ですか?

インターセックス・ムーブメントは、インターセックスの存在自体をタブーとして隠蔽する現行の医療パラダイムを批判し、完全な情報開示と患者の自己決定を尊重する医療パラダイムに移行するよう要求しています。また、インターセックスの子どもを持った親とインターセックスの子どもに対し、カウンセリングや自助グループなど社会的・心理的なサポートを提供するよう要求します。インターセックスの子どもやその親が生きにくいとしたら、それは社会の問題であり、子どもの身体ではなく社会を変えることで「すべての人が生きやすい世の中」を作るべきであると考えます。インターセックス・ムーブメントは、子どもが男児もしくは女児として育てられること自体には反対しませんが、不必要かつ本人の同意を得ない性器形成手術に反対しています。

インターセックスの症状は健康に害がありますか?

一般的に、インターセックスの性器(内性器・外性器の異常など)自体は危険ではありません。ただし、そういう状態の原因となった内分泌系の異常が、別の危険な症状を引き起こしていることはあり、治療が必要な場合があります。具体的な例を挙げると、クリトリスの肥大を起こすことで知られる先天性副腎皮質過形成 (congenital adrenal hyperplasia) の患者のうち相当数はコルチゾールという薬を必要としており、処方されないと最悪の場合死亡することもあります。当然ながら、クリトリスを切除しても全く治療効果はありません。また、線条性腺や生殖腺形成不全については、性腺が悪性変化する危険が多少あり、幼いうちに取り除くべきかどうか議論が分かれています。

インターセックスの子どもは、どれくらいの確率で生まれますか?

インターセックスの子どもが生まれる確率は、どの症状までインターセックスに含めるかによって大きく左右されます。Fausto-Sterling (2000) は最大で人口の 1.7% が「通常思われている『男性』『女性』以外の特徴を持っている」としていますが、これは必ずしもインターセックスの確率を示したものではないとされています。一方、Sax (2002) はインターセックスの定義を厳密に絞り込んだ結果、実際の確率は 0.018% に過ぎないと主張しています。より一般的な数字としては、目で見てすぐにインターセックスと分かる子どもは2000人に1人の割合(日本ではだいたい1年間に600人弱)で生まれているとされています。

ジェンダーに関する質問

インターセックスの子どもは男の子、女の子どちらに育てたらいいですか?

インターセックスの子どもに限らず、子どもの「本当の」性自認(自分の性別はこれだという意識)は、その子が成長して自分の意志で表現するまで誰にも分かりません。しかし、私たちの社会では、本人の意志とは無関係に、身体的特徴によって全ての子どもを「男性もしくは女性」に分類し、届け出すことになっています。このような社会において、特定の子どもだけ「育児上の性別を決めずに育てる」ことは、当人にとっても、家族にとっても負担が大きすぎます。そこでわたしたちは、今の社会では、インターセックスの子どもたちも、その他の子どもと同じように、その子の外見(性器の形)や既存の統計学的見知(この性染色体及び性腺を持った子どもはこういう性自認になることが多い、など)から、育児上の性別を決定するよう勧めています。

ただし、「男の子(あるいは女の子)として育てる」ことは、必ずしも「男は(女は)こうあるべき」だという典型的な姿だとか、伝統的に「男らしい(女らしい)」とされた役割や価値観を子どもに押し付けることを意味しません。また、もしその子が成長した時、与えられたのとは違った性別で生きたいという希望を表明するなら、その子が自分の希望する性で生きられるようにサポートするべきだと考えます。周囲が選んだのとは違う性別を将来子どもが選択する可能性がある限り、取り返しのつかない結果となりかねない「性器形成手術」は本人の意志抜きで行なわれるべきではありません。

インターセックスは「第3の性」ですか?

インターセックスの症状を持つほとんどの当事者は、普通の男性もしくは女性として生活しています。また、インターセックスという言葉に含まれる症状には大きな幅があり、全てのインターセックスの身体を1つの性として扱うには無理があります。さらに言うなら、今の社会では、人の性別は本人の性自認(自分の性別はこれだという意識)で判断されるべきであり、性器の形で判断すべきではありません。このように、インターセックスを「第3の性」として扱うのは乱暴な理解です。

ただし、世の中には「自分は男でも女でもない」と考えるインターセックスの人もいれば、生まれつきインターセックスではないけれど「第3の性」として生きる事を選択した人も存在します。インターセックスの人たち全体が「第3の性」であるという事はありませんが、彼らの性自認は尊重されるべきです。

性同一性障害(GID)はインターセックスの一種ですか?

性同一性障害(GID)がインターセックスの一種であるという説はハワイ大学の Milton Diamond 教授が日本各地で講演した際に主張したものですが、日本において主張が知られている割にはその事についてはっきりとした論文はいまのところ発表されていません。GIDに生物学的な要素があるということは古くから主張されており、それを裏付ける研究も Zhou, Hofman, Gooren, and Swaab (1995); Kruijver, Zhou, Pool, Hofman, Gooren, and Swaab (2000) らによって発表されていますが、これらの研究を発表した当の研究者たちが Chung, De Vries, and Swaab (2002) ではそれとは反対の意味に解釈できるデータも発表しており、決定的ではありません。

いずれにしても、「GIDは生物学的に起きるものであるからインターセックスである」という主張には、「インターセックスは生物学的に起きるものである」という暗黙の前提がありますが、これは必ずしも明白ではありません。例えば、現在の医学ではクリトリスの大きさが平均より2標準偏差大きいものはインターセックスであるとされ、ペニスの長さが平均より2標準偏差短いものもインターセックスであるとされていますが、それを決めているのは社会的な合意事項であって、生物学的な基準ではありません。「生物学的=インターセックス」という前提を取る場合、病気でもなんでもない身体が社会的な偏見によって恣意的に「異常」とされているプロセスを見失う事になりかねません。

また、GIDをインターセックスの一種とする場合、インターセックスについての議論の焦点を医療倫理やインフォームドコンセントの問題から、「身体的な性と精神的な性の一致」といった方向へと変化させてしまう危険もあります。さらに、「GIDはインターセックスの一種」説を支持する人の中に、「GIDよりインターセックスの方が偏見なく社会的にも受け入れられたカテゴリである」という考えがあるのであれば、そのような安易な考えは、実際にインターセックスへの偏見(および、偏見を前提に作られた医療体制)によって苦しんできた当事者たちを傷つけます。そのような理由から、仮に「GIDは生物学的に起きるもの」であったとしても(生物学的な要素が存在する可能性は高そうです)、だからといってGIDをインターセックスの一種とする主張には問題があります。もしGIDが脳の検査によって出生後すみやかに診断されれるようになり、本人の意志とは無関係に脳手術によって「治療」されるようにでもなれば、名実ともにGIDはインターセックスの一種であると言ってもよいかもしれませんが。

わたしたち(インターセックス・イニシアティヴ)はGIDを持つ人たちが自分の望む性で自由に生きる権利を全面的に支持しており、彼らが生きやすい世の中になるよう希望しています。インターセックスの運動を一番最初に支援してくれた非当事者はトランスジェンダーの人たちであり、今でも様々な面でお互いに協力しあう関係を保っています。

医学的な質問

注意:わたしたちは、できるだけ正確な医学的情報を提供するようこころがけていますが、医療従事者ではないので、個々のケースについて医学的に適切なアドバイスはできません。ここに書いてある内容は、あくまで一般論として参考までにとどめてください。また、ここで紹介するのはインターセックスとされる症状の全てではありません。もしここに書かれた内容に問題があれば、メールで連絡をお願いします。

先天性副腎皮質過形成とは何ですか?

先天性副腎皮質過形成(CAH:congenital adrenal hyperplasia)とは、21-hydroxylase など副腎がコルチゾールを分泌するのに必要な酵素を欠いたために起こる症状で、劣性遺伝によって生じます。性別に関わらず発生しますが、女児の場合過剰分泌される男性ホルモンの影響で、クリトリスが肥大化するなど、男性化して生まれます。極端なケースでは、女性型の内性器を持つにも関わらず間違って男性として育てられることもあります。一方、穏やかなケースでは、出生時は通常の女性型の外見をしていることもあります。ホルモン治療を受けない場合、男女ともに通常より早く二次性徴を迎えることが多く、女性の場合月経が止まることもあります。また、塩分を消耗するタイプがあり、放置すると副腎不全を起こして死亡することもあります。

一般的にはコルチゾールなどのステロイド処方によりホルモン値を正常に近付ける治療が行なわれますが、ステロイドの長期的服用についての副作用については不明な点が多く、多くの人が不安に感じています。また、過去50年間に渡って肥大化したクリトリスの全体もしくは一部を切除する手術が行なわれてきましたが、近年では当事者や一部の医者による批判の声が上がっています。

アンドロゲン不応症(精巣女性化症候群)とは何ですか?

アンドロゲン不応症(AIS:androgen insensitivity syndrome)とは、男性型の性染色体を持つにも関わらず、男性ホルモンの受容体の異常が原因で男性ホルモンに身体が反応できないため、女性型の外見を持って生まれてくる症候群です。全く男性ホルモンに反応しない完全型(CAIS:complete AIS)と、多少は反応する非完全型(PAIS:partial AIS)があり、PAISで程度が軽い場合は男性として育てられることもあります。AISは、以前「精巣女性化症候群(TFS:testicular feminization syndrome)」と呼ばれていましたが、当事者に不評だったためか現在ではAISという呼称が使われています。

CAISの場合、精巣を除去して女性ホルモンを投与することが行なわれていますが、医者が「本当の診断を知るとショックだろうから」という理由でそれが精巣であることを隠して「卵巣に異常があり癌になる危険があるから」「あなたのX染色体に異常がある(本当は正常なY染色体を持っている)」などと説明することが多く、インフォームドコンセントの権利が侵害されていることが当事者によって問題化されています。AISの患者には子宮が無く、膣はあっても短いことが多いため手術も行なわれますが、多くの場合において手術以外の方法でペニスの挿入に十分な深さに膣を広げることができることが分かっており、手術が必要かどうかも分からない幼いうちに手術をする必要はありません。

膣欠損症(メイヤー・ロキタンスキ・クスター・ハウザー症候群)とは何ですか?

膣欠損症(vagina agenesis)とは、その名の通り、性染色体・性腺ともに正常な女性型でありながら、特に明白な理由もなく膣が欠けている症候群で、研究した(男の)医者4名の名前をとってメイヤー・ロキタンスキ・クスター・ハウザー症候群(MRKH:Mayer-Rokitanski-Kuster-Hauser syndrome)という長ったらしい名前でも呼ばれます。子宮も欠けているか未発達で妊娠はできませんが、卵巣は通常に機能しており、月経を除く二次性徴は通常通り経験します。MRKHの子どもに対しては膣形成手術が行なわれていますが、MRKHを持つ女性のための自助グループを作った Esther Morris (2001) は、「膣がなかったことを異常だとは思わなかったが、膣を作らなければいけないとされたことで自分は異常だと感じた」と話しています。

性腺形成不全とは何ですか?

性腺形成不全(gonadal dysgenesis)とは、性腺が睾丸もしくは卵巣へと通常通りに分化しないことを言います。性染色体がXY(男性型)で性腺形成が完全に不全だった場合、卵巣がないほかは女性型の外性器・内性器を持つスワイヤー症候群(Swyer's syndrome)になります。部分的に性腺(睾丸)が形成されたXYの人は、男性ホルモンの影響を部分的に受けるので、中間型の外性器を持ちます。ターナー症候群(性染色体XO)の女性も性腺形成不全になります。

形成不全な性腺は悪性変化する危険があるとされ、できるだけ早期の切除を主張する医者がいますが、その危険が二次性徴前では非常に低いことや、成長期の身体には体外からステロイドを摂取するよりは体内で生成されるホルモンの方が良いと思われることなどから、インターセックス・ムーブメントは、すぐに切除するのではなく、適切に状況をモニターしつつ、本人が二次性徴を迎えるまで待った上で本人に決断をゆだねるべきであると主張します。

5α還元酵素欠損症とは何ですか?

5α還元酵素欠損症(5-alpha reductase deficiency syndrome)とは、XY性染色体(男性型)を持つ個体が胎内で生成される際、テストステロンをDHTという別の種類の男性ホルモンに作り替えるための5α還元酵素を欠いているため、十分に男性化されないまま生まれてくる症状です。生まれる時の外見は女性型に近いため、XY型とは気付かれずに女性として育てられますが、二次性徴においてはDHTは重要ではないので、ごく普通の男性と同じ二次性徴を経験します。先進国では非常に稀であり、ほとんどの場合二次性徴期に性腺摘出手術及び女性ホルモン投与を受けてそのまま女性として生活することになりますが、他の国では思春期以降男性として生きる事を選択した例も紹介されています。

尿道下裂とは何ですか?

尿道下裂(hypospadias)とは、先天的に尿道がペニスの先端ではなく下側に開いた状態のことを言います。軽度の場合は手術をせずにそのまま放置されますが、立って小便ができない程度の重度だと判断された場合、尿道の位置を変える手術が行なわれます。成功すればめでたく「立ち小便ができる」ようになるのですが、失敗した場合、尿道の途中から尿が漏れることがあり、それを修正するために手術が繰り返されることがあります。また、本来あった場所から尿道を移動させるため、手術跡から細菌に感染することが多いとされます。

多くの医者は尿道下裂をインターセックスの一種としては扱いませんが、「性器それ自体は健康上あるいは性生活上問題がないにも関わらず、(立ち小便ができないと学校などで恥ずかしい思いをするという)社会的な理由によって手術が正当化されている」という現状が他のインターセックスの症状と共通しており、当事者の一部は手術をするかしないかは本人の意志に任せるよう主張しています。

骨粗鬆症とは何ですか?インターセックスとどういう関係があるのですか?

十分な密度を持った健康な骨を維持するためには、エストロジェン(女性ホルモン)やアンドロジェン(男性ホルモン)といったステロイドが必要です。ところが、インターセックスの人の多くは、生まれつき十分に機能する性腺(睾丸・卵巣)を持たないか、持っていても手術によって除去されたかで、健康な骨を維持するだけのホルモンを体内で生成しない人がたくさんいます。長年に渡って放置すると、骨粗鬆症になり、簡単に折れたり亀裂が入るくらいに骨がもろくなります。非常に苦痛であるだけでなく、自由な行動が取れなくなります。これを防ぐには、適切なホルモンを摂取することが必要です。骨の強度を保つにはカルシウム摂取やエクササイズも有効ですが、ホルモン摂取抜きでは不十分です。過去に医療によって苦しめられた経験から医療を避けているインターセックスの人は多いですが、骨粗鬆症についてだけは、必ず専門医に相談してください。

参考文献

Chung WCJ, De Vries GJ, Swaab DF (2002). "Sexual Differentiation of the Bed Nucleus of the Stria Terminalis in Humans May Extend into Adulthood." Journal of Neuroscience, 22(3):1027-1033.

Fausto-Sterling A (2000). Sexing the body: Gender politics and the construction of sexuality. New York: Basic Books.

Kruijver FPM, Zhou JN, Pool CW, Hofman MA, Gooren LJG, Swaab DF (2000). "Male-to-female transsexuals have female neuron numbers in a limbic nucleus." Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism. 85(5): 2034-2041.

Morris E (2001). "The missing vagina monologue." Sojourner March 2001.

Sax L (2002). "How common is intersex? A response to Anne Fausto-Sterling." Journal of Sex Research. 39(3): 174-178.

Zhou JN, Hofman MA, Gooren LJG, Swaab DF (1995). "A sex difference in the human brain and its relation to transsexuality." Nature. 378:68-70.

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